J君は脆弱でした。
そこで、その脆弱さを補うために、正義のグループに参加することにしました。正義のために行動であれば、まわりのみんなが力を貸してくれて、脆弱さは問題にならなかったからです。
J君は、悪を狩り、正義をなす行動に没頭しました。もちろん、思い通りの成果が出せたわけではありません。しかし、悪に出し抜かれることがあっても、正義のための努力は常に賞賛されました。
しかし、J君にも1つの懸念がありました。それは『正邪の更新』です。正義は常に正しいわけではありません。勝った者が正義という諺もあり、戦争の勝敗が正義と悪をひっくり返してしまうことも珍しくありませんでした。
だから、J君は正邪がひっくり返ることに細心の注意を払って注意しました。つまるところ、J君は正義への信念を貫きたかったわけではなく、常に正義の側に立っていたかっただけなのです。
J君が属するグループが国家認定の正義集団となったとき、J君は危険を感じ取りました。これは戦争に負けたときに一発で悪にされかねない立場です。
そこで、J君は戦争に負ける直前に組織を抜けて、それまで戦っていた悪の組織に寝返りました。
J君はこれで正邪の更新があっても正義側に立てるとほくそ笑みました。
ところが、いざ戦争が終わってみると正義集団はそのまま戦勝国の公認手先機関となり、治安維持を任されました。旗を取り替えただけでした。
一方で悪の組織は他人の言うことを聞かない体質に染まっておりすぐに占領軍と対立関係になりました。
J君が気付いたときには手遅れでした。
J君はお尋ね者の裏切り者として、指名手配されていました。
かつての仲間に捕獲されたJ君はかつての仲間に問いました。
「君たちだってかつての理想の裏切り者じゃないか」
すると彼らは答えました。
「正邪の更新に合わせて上手く立ち回るのも処世術だ。J君は上手く立ち回ろうとする熱心さが足りなかっただけだ」
(遠野秋彦・作 ©2011 TOHNO, Akihiko)